ビジョンは「神の家族」「十勝に7つの教会を」
帯広栄光キリスト教会
北海道は十勝地方・帯広市に、「牧師にさほどカリスマ性が無いのに、教会員がビジョンを共有して成長を続ける教会」があるとの噂を聞きつけ、取材に行って来た。地方教会として、その地域に根付きながら邁進する日本福音キリスト教会連合・帯広栄光キリスト教会の成長の秘訣を探る。
帯広市
帯広市は十勝平野のほぼ中央に位置し、人口は17万人弱。10年ほど前から人口の減少が続く一方で、世帯数は増え続けている。核家族化が進んでいるためだ。離婚率も高く、母子家庭の数も増え続けている。市の若者の就職率は低く、高校を出ると地元を離れるケースが多い。
「帯広はどんな土地ですか?」との記者の質問に、村田晃牧師は待っていましたとばかりに目を輝かせ、『十勝における神様の宣教』と書かれた年表を取り出した。自身でこの地の歴史をひもとき、キリスト教との関係を年表に仕上げたのだ。
帯広市に福音のクワが入れられたのは1883年、静岡出身の依田勉三率いる晩成社の入植に遡る。依田と共に入植した渡辺勝・カネ夫妻と鈴木銃太郎。この三人がクリスチャンだった。カネ夫人は英語教師で、子どもたちの教育に聖書を用いた。「十勝開拓の初期段階からクリスチャンが送られていたことに神の摂理を感じます」と村田牧師。「歴史の流れの中で、十勝には神様の深いご計画があるのだと確信しました。その神様の計画の中で私たちも遣わされてきたのです。」
派遣、そして葛藤の日々
宣教師と婦人伝道師が開拓した帯広栄光キリスト教会は、1985年の創立。1989年に、当時30歳の村田牧師夫婦が派遣されてきた。そして来て間もない頃、宣教師に連れられて十勝の様々な教会や求道者の家々を訪問した。
その時に確信したのは、自分の働きのフィールドは帯広の一教会に限定されず、十勝全体であるということ。「神様、私の伝道範囲は十勝なんですね」とつぶやいた。
現在、帯広市には10ほど、十勝全体では20弱の教会がある。教会の少ないこの地域では、自分のところだけではなく、超教派の働きを重んじなければ宣教は進まない。毎月1回、十勝地区の牧師が集まり、一緒に祈り会を持つ。「教団教派を言っていると十勝は勝ち取れない。神様の視点はいつも、エペソの教会、コリントの教会と、その地の教会。私たちも『帯広の教会』『十勝の教会』なのです」と村田牧師。
しかし、赴任して7年ぐらいは辛い時期が続いた。ビジョンを掲げて新しい取り組みをしようとしても、役員会で「反対です」という意見が出て、前に進めなくなったのだ。何日も何時間も話し合ったが、まったく結論が出ない。ある役員とは、相手が教会を出るか自分が牧師を辞めるか、という厳しい関係になった。
「私は、独りよがりになって意固地になることがあるんです」と村田牧師。しかし、ある日の役員会で、牧師と役員の双方が悔い改め、赦し合うときが与えられた。互いに非を認め、謙遜になって悔い改めた。ここから流れが変わってきた。
その頃村田牧師は、佐藤彰牧師(福島第一聖書バプテスト教会)のアドバイスを受けるため、休暇を利用して家族で福島県大熊町を訪れる。「辛い時期だったのですが、佐藤先生には本当に助けられました。また、あの教会が置かれている地域と私たちが置かれている地域の共通点も見えてきて、小さな教会を次々に生み出していくビジョンが与えられたのです。」村田牧師は、苺のように次々につるが出て、その先にいくつもの実がなる教会形成をイメージした。
十勝に7つの教会
役員会の雰囲気は一変した。ビジョンを掲げつつも、役員や信徒たちの意見にも耳を傾けるようになった。「意見を聴いてみると、本当にいろいろなアイデアを持っていたんですね。私の問題だったんだ、と分かりました。」と村田牧師。
「ビジョンに対する反対意見が出たときはどうするんですか?」と訊いてみると、「うちには6人の役員がいるのですが、そのうち1人が反対なら、教会全体だと10人ぐらいが反対だと思うんですね。だから、神の時が来るのを待つのです。」との返答。エペソ1章10節の「時がついに満ちて、実現します。」が指針となっている。
そして2004年、「神の家族」と「十勝に7つの教会を」という二つのビジョンが主から与えられた。
まずは教会をセルグループに分けたのだが、各地域に教会を生み出すため、地域ごとのセルグループにして、年齢も赤ちゃんからお年寄りまで10数名を一つのグループに入れた。つまり、「小教会」を各地域につくるかたちだ。現在、5つのセルグループが、週1回の祈り会と月1回の交わり会を持っている。
現在、その中から、中札内村に一つの教会が生まれ、音更町にも新たな動きが始まっている。「まだまだ手探りの状態で、伝道師と交互にメッセージをしたり、信徒メッセンジャーを育成したりしています。」中札内村の教会は、教会員が運営する喫茶店「ファミリーカフェ ぷりすか」を礼拝場所として使用している。
7つの教会のビジョンに関しては、「一人も逃さないように福音を伝えたい。淋しい人が希望を見出し、悲しんでいる子どもが悲しみから救われるように。孤独な人たちが真の友を見つけることができるように。」と熱く語る。
神の家族
もう一つのビジョン「神の家族」は、単なるスローガンではなく、実際に“家族”となっていくということ。赤ちゃんからお年寄りまで、一緒に仲良く愛し合って暮らすような教会。モットーは「互いに愛し合い、赦し合い、仕え合う家族のような教会」
村田師夫妻が赴任した当初から、子ども伝道には力を入れ、少しずつ集まるようになる。教会学校(CS)をグローリー・キッズ・クラブ(GKC)と名付け、スタッフと共にMEBIGなどの研修にも積極的に出かけた。特に、牧師夫人の智子さんに子ども伝道の強い重荷が与えられ、次々と新たなアイデアが実現していった。
GKCは、毎年二つの大きなイベントを行ってきた。イースターお楽しみ会とクリスマス会である。4つの小学校の前でチラシを配り続け、200人を超える子どもが集まった年もあった。そこから一人、二人を根付かせる。その子たちが楽しいと分かれば、自分の友達も連れてくる。
そのようにして、今では30人ほどの子どもが集まるようになった。彼らは教会が大好きで、日曜日のプログラムが終わってもなかなか家に帰らず、平日も教会に入り浸っている。教会は、いつも子どもで溢れている。
村田牧師自身も子どもの頃から教会に通うクリスチャン三世。CSの重要性を体験的に知っていた。
「私が子どもの頃は、子どもは向こうに行っていなさいって怒られたんです。私自身は小学生の時にすでにイエス様を信じていたのですが、その信仰を聞いてくれる大人がいなかった。『信じます』から次につなげてくれる大人がいなくて、何度も『信じますか?』『信じます』の繰り返しをさせられたのです。」
子ども伝道に力を入れる理由は「子どもたちこそ教会の将来」という考えと、イエスが語った「子どもをないがしろにしてはいけない」の言葉。村田師夫妻は、子どもも福音の意味を理解することができると信じ、軽視しない。聖霊の働きによって彼らに永遠のいのちが与えられ、魂が変えられていくと確信している。
さらに、「神の家族」を形成するため、親たちにもアプローチしてきた。帯広は転勤族も多く、孤独なお母さんが多いという。育児ノイローゼによる自殺もある。そこで、小さな子どもを持つお母さん方を対象にした「まめっこサークル」という育児サークルを約10年間行ってきた。
「最初の頃は、私と同年代の人が集まってきましたが、本当に家族のような教会になることを願って祈ってきました。実際そうなってきていますね。」その言葉通り、子どもが救われ、お母さんが救われると、お父さんも来るようになってきた。そこからさらに、お年寄りを導くことも目指してきた。
中高生伝道にも力を入れている。現在、10数名の中高生が毎週土曜日に集会を持つ。この3月には「Fight!」という外に出て行くプログラムにチャレンジ。ライブハウスを借り切って、中高生による賛美、ダンス、スキット、さらに未信者のバンドにも登場してもらった。スタッフは4名で、大学生や20代の若者が担当している。
今、この教会にはあらゆる年齢層の人がバランスよく集まり、一つの大家族を形成しているのだ。
ビジョンの共有
「十勝に7つの教会を」と「神の家族」という二つのビジョンを、教会全体ではどのように共有しているのだろうか。村田牧師は、それを具体化させるため、「帯広栄光キリスト教会使命達成の7つの理念と方策」という資料を作成。「7つの理念の下に7つの教会を十勝に生み出す」として、以下の7つを理念として掲げた。
①神の家族(共同体)として生きる、②地域の共同体として生きる、③主の弟子となる、④礼拝者として生きる、⑤伝道者として生きる、⑥教会を生み出す教会、⑦世界の教会と協力しての世界宣教。
教会員とビジョンを共有することの重要性は、JCGIネットワーク(旧・日本教会成長研修所)の学びの中で知った。研修課題の中で、「教会で祈ってもらうこと」、「教会員と一緒に作業をすること」などが挙げられていたのだ。
2009年の礼拝説教では、この「7つの理念」を1年間で2回ずつ学んだ。総会の度に理念を強調し、セルグループのリーダー会でも繰り返し語った。様々な場面でこの理念を引用し、各教会員が見るべき方向と立つべきスタンスを共有すること、神の家族が一丸となって同じ価値観(コアバリュー)で進んでいくことを目指している。
また、伝道に関しては次のように語ってきた。「イエス様がおられる所には人々が集まってくるはず。だとしたら、私たちの関係も、そこにイエス様がおられるという関係を築くことが重要。」
GKCと日曜礼拝
日曜日は、朝9時から始まるGKCでスタートする。記者が訪れた日は20人ほどの子どもが集まり、ゲームと賛美の後は牧師夫人がメッセージ。この日は使徒11章26節から「クリスチャン」の言葉の意味、キリスト者としての歩みについて語られた。
子どもだからという妥協は一切せず、クリスチャンとしての自覚を小さい時期から持たせる内容だ。最後は聖書箇所を暗唱し、分級に別れる。さすが子ども伝道に力を入れているだけあって、一連の流れがしっかりと出来上がっていた。
GKCの教師は5名。子どもたちは、みんながみんな言うことを聞くわけでもなく、暴れる子もいる。CSの時間以外でも、大人は子どもたちみんなの「親」という意識で、叱るべきときには叱り、褒めるべきときには褒めている。よその子ではなく、家族の一員として接している姿が印象的だった。
礼拝は午前10時半から始まる。温かい雰囲気で80名ほどが集まっている。お年寄りの世代から中年の夫婦、そして独身者たち。家族全員で参加している家庭も多い。手話での同時通訳もあり、あらゆる面でバランスが感じられる。
当日のメッセージは第一列王記7章からだった。基本的に講解説教だという。また、去年から教会として3年間をかけての聖書通読を開始し、通読箇所がメッセージ箇所として選ばれている。教会全体で同じ聖句を読み進めていくことによって連帯感が生まれ、同じ方向性が示されるのだ。メッセージでは御言葉が丹念に解き明かされ、そこから現代を生きる私たちへの適用が示された。
礼拝後は教会員みんなで昼食。この日は素麺だった。礼拝後、2階の食堂にわっと集まり、流れるように食べていく。その日の午後、翌日の「夏祭り」の準備があるのだ。スムーズな食事の陰には、準備、盛りつけ、配膳、後片付けを要領よくこなしていく婦人たちの姿があった。
夏祭りから見えたもの
十勝晴れの海の日。朝から教会員総出で「夏祭り」が行われた。この日のために3ヶ月前から実行委員会が組織され、ミーティングと準備が重ねられてきた。とにかく出し物の数がすごい。野外テントでは、食べ物や子どもゲームコーナー、かき氷屋などが並び、教会内ではフリーマーケットにクリスチャン書店、そして、この教会の歴史が紹介される。
会堂内の壁には、教会員による絵やクラフトの展示。展示品が一つひとつが実に凝った作品で、見ていて飽きない。2階では「カフェあきら」と名付けられたカフェがあり、村田牧師が座って待っている。その日初めて教会を訪れた婦人たちと牧師が団らんしている様子が幾度も見られた。
これほど広範囲で充実した夏祭りの秘訣は、信徒の主体的行動にあるようだ。しかたなくやっている人はいない。それぞれの信徒が自分の賜物を知り、何をするときに喜びがあるのかを理解している。カフェをやる人は、「カフェあきら」を取りしきり、歴史に興味がある人は、帯広の歴史とキリスト教の歴史をひもときながらパワーポイントでプレゼンをする。
この教会では「やりたい!」と言ったとき、「じゃあ、あなたがやってね」と任され、形になっていく。信徒の主体性が育ち、実践の中でリーダーシップを学ぶシステムができているようだ。
また村田牧師には、明確なビジョンを示しながらも、教会員を強引に引っぱっていくという雰囲気が感じられない。そういう意味ではカリスマ性がない。極めて親しみやすく、自然体なのだ。「私の役目は、私がいなくてもこの教会がまわっていくようにすること。つまり、信徒一人ひとりが神様に根付き、自立したクリスチャンになっていくためのお手伝いをすることです。」
最後に、「役員や信徒との良好な関係を保つためには何を心がけていますか?」と訊いてみた。
「この教会には、私が間違ったときにはっきりと指摘してくれる信徒が何人かいます。それは本当にありがたいことです。私は何か特別なことをしている訳ではないのですが、できる限り自分の真実な姿を信徒の前で出すようにしています。そうすると自由に話せる雰囲気になるようですね。」そう語り、「私は信徒に励まされ、労られている牧師なんです」と笑った。
(取材・松本務)
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