オールJCGI全国研修会
リーダーシップの「河口理論」(1)
ピーター・チャオ氏は、シンガポールを拠点としてアジア各国での伝道、リーダー育成、一般企業と教会・宣教団体に対するコンサルティングを行うイーグルス・コミュニケーションの総裁を務める。また、クレアモント大学のピーター・ドラッカー/伊藤雅俊ビジネススクールの博士課程プログラムに在籍し、数多くのセミナーで主講師を務めている。今回は、教会の世代交代に用いられている「河口理論」について詳しく語った。
セッション1
私がピーター・ドラッカーのところで博士課程を学んでいるときに、私の中で革命的な思考の変化が起こりました。ドラッカーはこう言いました。「クリスチャン・リーダーシップ、そして非クリスチャン・リーダーシップというものは無い。ただ、良いリーダーシップと悪いリーダーシップがあるだけだ。」また、「聖書的な価値に基づいたリーダーシップを求めるなら、良いリーダーシップを得るであろう」とも言いました。つまり聖書的なリーダーシップは、良いリーダーシップなのです。
今日はリーダーシップのリニューアル(刷新)について語ります。私の国のことわざに、「将来について心配しない人は、しばらくすると現在について心配するようになる。」というものがあります。今日の決断が明日の現実になるのです。
リーダーシップのリニューアル、バトンタッチで一番大切なことは、自分に対して忠誠を誓ってくれる人を選ぶのではなく、その仕事に対して最善の人を選ぶということです。私たちはこれを「タレント・スポッティング」(人材発掘、能力発見)と言っています。能力を発見していくというのはリーダーの大切な責任です。有能な人はどこにいるのか、その能力はどこにあるのかを捜すことによって、教会、団体、ミニストリーの未来は確保されるのです。
私が教会のリーダーシップについて学び始めるうちに、リーダーシップに対する誤った考えがあることに気づかされました。一つは、先輩の牧師たちが言った「主の働きをする人間に退職はないのだ」という言葉。これは真理であり、真理ではありません。
実際、主の働きから引退することがない、というのは事実です。イエスを讃えることに終わりはありません。人々を主に導くことに引退はありません。神から与えられた賜物を使うことにも引退はありません。しかし、死ぬまでその地位に立ち続ける必要はないのです。後任者を考えなければならないのです。季節は移り、時は変わるのです。
私は、あることを発見しました。年配のリーダーがその地位に留まれば留まるほど、彼は尊敬されなくなっていくということです。そして彼らは、尊敬されなくなればなるほど、その地位にしがみつこうとするのです。最終的に犠牲となるのは教会、ミニストリー、組織です。
次に、アジアに特徴的な問題として、リーダーシップを家族・親族内に留める、ということがあります。ある牧師は教会をファミリー・ビジネスにしてしまいます。息子が全然説教できないのに、後を息子に継がせようとするのです。
では、どのようにして若いリーダーを整えればいいのでしょうか。私はある朝、5時に目が覚めて「河口」という言葉がひらめきました。塩水と真水が混ざる場所です。その絵を描きながら、リーダーシップの刷新について学んでいきましょう。
セッション2
塩水は真水よりも重いので、自然に海から川へと押し上げてきます。下から淡水を押し上げていく働きをし、それによって新しい命、海の生命体が豊かになる。ここから5つのリーダーシップ・レッスンが学べます。
第一に、リーダーシップ・リニューアルは、リーダーシップの共有を意識的に行うところから始まります。まず、先輩のリーダーがリニューアルを進めるきっかけをつくります。新しい次のリーダーに投資し、励ましていくなど、「注ぎ込む」ことからリニューアルが始まるのです。
第二に、先輩のリーダーは、新しいリーダーが立つことが出来る土台と安定を提供します。海水が下から淡水を支えるように、土台と安定をもたらすのです。そして土台は、目に見えません。超高層ビルの土台は地中深く築かれていますが、誰も地面を見て、「すごい土台が地下深くにある!」とは言いません。むしろ、土台が地上に現れてきたら恐いのです。
第三に、新しいリーダーに、リーダーシップを発揮し、輝くことが出来る機会を与えます。その際、後輩たちが自分のコピー、クローンにならないようにしていただきたい。彼ら自身のユニークな在り方でリーダーシップを発揮させてほしいのです。皆さんの内側にリーダーシップの価値観がしっかり根付いているなら、方策を心配する必要はありません。それは自然に出てくるものです。
第四に、「塩水」(先輩)の言葉は、「真水」(後輩)の発言や表現に、これまでの歴史・状況を踏まえた文脈を与えることができます。
先輩リーダーがよく言ってしまう「私の若い時はこうだった。私が君の年齢の頃には」という言葉。若い人たちはこの言葉が嫌いです。若い牧師たちは、「先生が私の年齢だった頃には、世の中が全然違っていたじゃないですか。」と言いたくなるのです。
しかし先輩リーダーは、豊富な経験と失敗から、どういうことになるかも分かるので、その知恵を与えることができます。そして自らの経験を提供する方法については、クリエイティブでなければなりません。若い人たちの表現、彼らがしたいと思っていることが、実は既に行われてきたことの延長線上にあるものだと理解させるのが先輩達の知恵です。
聖書も、文脈を無視して読んではいけませんよね。多くの若いリーダーにありがちなのは、勢いづいて新しい何かを発言するのですが、周りの人たちに嫌な思いをさせてしまうことです。それは、その教会やミニストリーのこれまでの文脈から外れているからです。先輩のリーダーは、若いリーダーの発言や表現に文脈を与え、それによって彼らを支えることができます。
第五に、「塩水」の言葉が「真水」の表現を下支えします。若いリーダー(真水)が激しく動いて発言する時に、下から、歴史的・文脈的な下支えをして、自由に舞台の上で活躍させるということです。それは、先輩が率先して下支えすることによってのみ可能です。これは、自分に対して自信がない先輩リーダーには不可能なことです。
これまで私がリーダーシップのリニューアルを見てきて分かったことは、先輩リーダーが若いリーダーを信頼し、リスクを負って様々な下支えすることにより、先輩リーダーは若いリーダーから必ず尊敬されるということです。先輩リーダーが後輩を信頼するとき、後輩はより多くの信頼を先輩リーダーに抱くようになるのです。
信頼とは、関係性の言葉です。先輩と後輩の間に深い信頼関係があるということ。組織的な方策、やり方ではなく、信頼と関係の問題なのです。最初に言いましたように、リーダーシップ・リニューアルは先輩から始まります。皆さんが何歳であるかは関係ありません。皆さんが教会の主管者であるなら、信頼していくことからしか始まらないのです。
牧師は、神様、イエス様から本当に聖い信頼を受けています。イエス様が私たちを信頼して、この滅び行く世界で唯一の救いを与えて下さったことで、私たちにはその希望をあらゆる世代にふさわしいかたちで伝えていく責務が与えられています。リーダーシップ・リニューアルというのは、福音がそれぞれの世代でふさわしく語られるためです。それほど真剣で、重要なものなのです。
皆さんに考えてほしいことがあります。次の作業をしてみて下さい。〈自分より10歳、20歳若い人とリーダーシップを共有することについて、気がかりなこと、考えなければならないことを書き出してみましょう。〉
(次号に続く)
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