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特 集

被災地におけるグリーフケア

カウンセラートレーニングセンター代表
荒木次也さん

長年カウンセラーとして不登校、引きこもり、夫婦関係の回復などに携わり、現在はカウンセラーの育成に力を注ぐ荒木次也さん。今回の震災では、所属する教会のチームと共に被災地を訪れ、親を亡くした子供たちのケアを行った。喪失の悲しみにどう寄り添えばいいのかを聞いた。(本誌・谷口和一郎)

被災地におけるグリーフケア

――被災地に行ってこられたということですが、カウンセラーの目で見た彼らの喪失感について聞かせてください。
荒木 
やはり今回は、戦後最大と言っていいほどの喪失があります。家が流された方、家族を亡くした方、その両方を失った方。そして原発の事故によって故郷、土地、家畜、仕事を失った方。いろんな種類の喪失がありますが、今回はその量と質がすごいですね。

――避難所で親御さんを亡くされた子供たちと関わられたということですが。
荒木
 私は、いわき市のグローバルミッションセンターをサポートするチームの一員として避難所となっている高校の体育館に行きました。そこで、こういう仕事をしていますから、避難所の責任者の方に「特に親を亡くされた子供さんと接したいのですが」と言って、話をすることができました。家が流されてお父さんが亡くなった小学6年生の女の子、お父さんを亡くした5歳の男の子、同居していた親族を亡くした小学5年生の女の子と話ができました。
 特徴的だったのは、その子たちは自分の身内が亡くなったことをまだ認めていないということ。「おとうさんは、どっかの避難所に行っていて、まだ会ってないの。」と言うのです。もう1ヶ月以上も行方不明ですから、分かっていると思います。自分が悲しんだらお母さんも悲しむから、平気な素振りをしているんです。非常に辛いことですけど。
 ただ、その他のものを失ったことはいろいろと話してくれました。ミドリガメの亀男と亀吉がいなくなった、とかですね。5年生の女の子は「飼っていた犬がいなくなった…」と言ったので、「逃げてどこかで生きてるんじゃないの?」と私が言うと、「鎖で繋いでたから逃げられなかった。」と言ってワーッと泣きました。可愛がってた犬だったんですね。
 彼らは、ほとんどのものを無くしているんです。競技会でもらった賞状や日記帳、アルバムといった記念の品や想い出の品もです。

――彼らが悲しみを出せない理由は何ですか。
荒木
 親は子供の手前、気丈に振る舞ってますし、子供も、お母さんが悲しむから、と悲しみを出せない。避難所では、「生きてて良かったねー」と喜びの感情は出しやすいのですが、悲しみは、みんなが悲しくなるからと思って出せない。行ってみて、お互いに頑張って耐えてるなあ、と感じました。

――でも、長い期間に亘って頑張り続けるのは難しい。
荒木 
そうですね。で、そういうときに誰に出せるかと言ったら、外部の人です。津波で家が流されたお年寄りは、避難所の中ではあまり話してくれなかったのですが、桜が咲いていたので外を歩きながら話しました。私が「失ったものって相当あったんでしょう」と言ったら、ワーッと感情が出てきました。外部の人が行き、なおかつ避難所の外で話したことで出たのだと思います。
 また私は話せなかったのですが、5歳の子供を持つ夫を亡くした女性がいまして、親戚のおばさんのような方が会いに来ていました。その女性は、体育館から出て車の脇で話をしているときに、おばさんの肩にしがみついて泣いていましたね。

――具体的な接し方を教えてください。まずは子供について。
荒木 
子供は、まずは一緒に遊んであげることが必要です。心が和んでくると、抱きしめたり触れたりもできますから、そうすると感情が出てきます。教会の大学生やユースが被災地に行って、子供たちと遊んであげることです。カウンセリングができるとかできないとかではなく、寄り添う気持ちが大切です。読み聞かせとかもいいでしょうね。
 また、子供には長期的に関わっていくことが必要です。私は、その被災地で会った3人ぐらいの子供さんに少なくとも3年ぐらいの期間で関わっていこうと考えています。時々行って、手紙を書き続けていくということですね。

――大人に対してはどのようなアプローチが考えられますか。
荒木 
大人に対しては聞きにくいですよね、こっちも。感情を聞こうとしても、どうしても白々しくなってしまう。だから、事実を聞くことです。「津波が来た時はどうしておられましたか?」とか「お仕事はどうなりましたか?」とかですね。相手が答えやすいこと、すぐに答えられることを聞いてあげる。そうやって会話を繋げているうちに内面のことも話してくれるようになります。
 一番いいのは、先ほども言いましたが、外に連れ出して歩きながら話をすることです。被災した方々は、寝たままだったり、座り込んだりして、体を動かす機会が少なくなっているので、運動にもなりますし、気持ちの切り替えにもなります。
 また、相手が女性の方だと、二人、三人を一緒に聞いてあげるのが一番です。すると、「大変だったよねー」「こうだったわよねー」と相乗効果が生まれる。一対一だと互いに話しにくいですよね。

――同じ苦しみを味わった者同士がスモールグループで語り合うことが重要だと言われています。今回、それをどのように適用すればいいと考えますか。
荒木 
私も、主宰するカウンセリングセンターで「スモールグループ」を用いたカウンセリングをしていますが、被災地で最も効果的なのが、このスモールグループでしょうね。避難所の中にスモールグループができたら一番です。そうすれば自分の気持ちをどんどん出せます。

――その場合、専門家が行って「じゃあ、スモールグループをつくりましょう」とやればいいんですか。
荒木
 そこはもう自然に、お茶菓子でも置きながら。「少し皆さんの話を聞かせてください」言って集まってもらい、事実を聞き出していく。そうすると、「私のところは家が流されて」とか「主人が亡くなりました」とか話し出してくれて、徐々に感情も出して涙ぐむようになります。そして皆で泣けるような雰囲気が生まれます。

――でも、男性の場合はなかなか感情を出せないのでは。
荒木
 はい、男性の場合は泣きませんね。悲しみを長い間持ったままにしています。そして、出さずに溜めていると、ダメージが深くなり、次第に気力が萎えていきます。泣いたり、怒ったり、恨んだり、「もう限界だー!」と叫んだり、そういったごちゃごちゃの感情を出せば出すほど早く立ち直れるのです。痛みや抑鬱感など、ネガティブな感情も出さないと駄目です。
 それで恐いのは男の自殺。普段でも圧倒的に男性の方が自殺しています。今回も、その危険性が出てくるのが半年、1年後ぐらい。そして男の場合、仕事に関する喪失が大きなダメージを与えます。船を失った、畑や家畜を失った、職場を失った、と。生きる術を失った喪失感というのは、身内を失った喪失感とは少し違います。身内の場合は想い出を語り継ぐことができますが、仕事の場合はそれができない。農業ができなくなって自殺した福島の男性、会社を維持できなくなって自殺した大船渡の男性など、すでに自殺者が出てきています。こういった男性をどう救うかが課題です。

――今回は地域社会全体が崩壊しかねない事態です。
荒木
 私は東北の出身ですからよく分かるのですが、東北は「地縁」というものが強い。地縁で仕事も生活も宗教も繋がっている。地元の農業で繋がっている、漁業で繋がっている。それが地元を離れ、避難所もばらばらになっている。避難所では食べ物はありますが、仕事がない。そういったときの男たちの喪失感というのは凄まじいと思います。
 私たちのセンターの前が公園になっていますが、ホームレスの方がたくさんいます。私は、いわきにボランティアに行った同じ週に、そのホームレスの方々と花見をしました。彼らは東北などの田舎から出てきていて、地縁を無くしています。心理的には、このホームレスの人たちと同じですね。だから、地元を離れてしまった人々は、定期的に集まって語り合うなどのことが必要です。ボランティアの方も、そういうことのコーディネーターになるといいですね。ボランティアがリーダーシップを取るのではなく、その地域のリーダー的な人をサポートしていくのです。

――では、避難所を出てからはどのようなケアが必要とされますか。
荒木
 避難所にいるときはまだいいのです。緊張していますから。でも家に帰ったら危ない。『すばらしい悲しみ』(グレンジャー・ウェストバーグ著 地引網出版)にも書いていますが、喪失を体験した人の憂鬱や悲しみという感情は、絶えることなく続くものです。そうすると、仮設住宅に入ったり家に帰ったりして一人になると、「もういいや…」と思ってしまう。ばらばらになったとき、緊張感が解けたときに心が萎えてしまうのです。
 ですからその場合は、一軒一軒を訪問することです。クリスチャンは、神によって慰められた、癒された経験を持っていると思います。第二コリント1章4節にあるように、私たちが慰められ、癒されたことによって人々を慰め、癒すことができるのです。このことを信じて、被災にあった人々に向き合って欲しいと思います。お勧めしたいのは、先ほどの『すばらしい悲しみ』と『慰めの手紙』(ヘンリ・ナウエン著 聖公会出版)を読んで被災地に行くこと。この2冊を何度も読み返しながら人々に接していくと、対処の仕方が分かってきます。

――被災者の中にも「怒り」を持っている人がいます。そういう方への接し方はどうすればいいのですか。
荒木 
怒りも出してあげることが必要です。「ホントにひどいですよね」「理不尽ですよね」と同調してもいい。怒りも出せば、心のつかえが取れます。感情は、出せば出すほど健康になるのです。
 聖書の中に「父たちよ、子どもをおこらせてはいけない」とありますが、子供というのは自分が悪いことをして叱られたら納得します。でも理不尽な叱られ方をすると、怒りが生じる。そして怒りを抱えたまま寝ると、それが潜在意識の中に入って行きます。だから寝る前に親が子供の辛さを聞いてあげれば、潜在意識の中に入らない。学校でいじめられた体験も、その日のうちに聞いてあげると、潜在意識の中に入らない。いじめられた子は必ず怒りを持ちますから。そうやって潜在意識の中に怒りを溜め込んだまま大人になると、何かの拍子に噴火するんです。DV(ドメスティック・バイオレンス)をしてしまう人というのは、そういう怒りを持っている人です。その場合も、第三者が過去の話を聞いてあげることです。そうすることで反応が和らいで行きます。

――最後に、現地に行けない人が関わる方法はありますか。
荒木
 現地に行けない人でも、手紙を出すことはできます。Eメールと手紙は全然違うんです。メールは悲しみが出てくる度合いが少ないのですが、紙に書いた手紙は感情を引き出します。相手に負担にならないようなかたちで、手紙を届けることができればいいですね。

 

profile
1946年、山形県生れ。教育心理学専攻後、スポーツ心理学、行動心理学、認知療法、現実療法を学び、生理学、イメージトレーニングを利用した関係回復カウンセリングを確立。不登校、引きこもり、親子、夫婦、シニア、 介護従事者等のカウンセリングに30年間従事。著書に、『危ない夫婦の再生術?3ヶ月で夫婦はステキに変われる』(リヨン社)、『不登校 心を癒す聞き方話し方』(評言社)などがある。

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