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キリスト教雑誌 舟の右側

ワイチローの取材日誌

リバイバルジャパン取材日誌

聖書信仰と「考えること」

更新日:2010年10月 2日

テレビ番組「ハーバード白熱教室」でおなじみのマイケル・サンデル教授が来日し、東京大学で「白熱教室」を行った。テーマは「イチローの年俸は高すぎる?」と「戦争責任を議論する」。

「戦争責任を議論する」では、現代人が前の世代が起こした戦争の責任を問われ、その過ちを償う義務があるのかどうか?という論点で議論が進んでいったが、違った複数の立場の意見が出て、とても面白かった。借り物ではない自分の言葉で語っている姿が頼もしくも見えた。(若干、変な学生もいたが…)

ひるがえって、聖書信仰に立つクリスチャンだと、こういう場合どう答えるだろうか?と考えてみた。曰く「世代を超えた責任はあります。なぜなら聖書にそう書いてあるから。ネヘミヤがいい例です。」未信者に対して、こういう言い方はしないだろうが、福音主義に立つクリスチャン同士だと、そう言ってジ・エンドとなる。私もそういう言い方をよくしてきたし、それはそれで正しいのだが、それが持つ負の側面も見ていく必要があるのではないかと思う。

「聖書にそう書いてある。」信仰と生活の唯一の規範を聖書に求めるクリスチャンにとって、この言葉は水戸黄門の印籠のような力を持つ。「クリスチャンは酒を飲んでもいいのですか?」「聖書には『酔ってはいけない』と書いてあります。」「じゃあ、酔わないように飲めばいいんですね。」「いや、ほのかに酔うことも酔うことになります。」「養命酒はいいんですか?」「うーん、パウロもテモテの胃弱のためにぶどう酒を勧めているし、まあ良しとしましょう。」律法学者の、安息日に何が労働になるのかの議論に似ている。

今回の番組で、とても本質的な事柄について議論を深め、真理を追究している学生たちの姿を見て、ふと、「私たちクリスチャンは自分の頭で考えることを放棄しているのではないか?」という思いが湧いてきた。せっかく神からいただいた頭(知性)で、もっと聖書が語る本質を探る努力をしていかなければならないのだろうし(字面主義ではなく)、「神」を前提としない人々の立場に立って一つの問題を深めていくことも大いに有益なのではないかと思わされた。つまり、「聖書」を最後の担保としながらも、神を最初から解答にもってこないで物事を考えていくということだ。

こういった知的努力によって、無神論を自覚する日本の人々の心に届く言葉が生まれてくるのだろうし、それをした人が発する「神」という言葉には、重さが出てくるはずだ。たとえ同じ言葉であっても、原理主義者が語るのとでは、言葉の「質量」が違う。軽い言葉は風が吹けば飛んでいく。

アメリカの教会は賛美する教会、韓国の教会は祈る教会、日本の教会は議論する教会、というようなことが言われるが、会堂のカーペットの色をどうするかとか、次の聖会の講師は誰にするかとかばかりを議論していて、あまり本質的なことは議論したり、考えたりしていないのかもしれない。 「教会のカルト化」という言葉自体は好きではないのだが、要は、自分の頭でものを考えないクリスチャン、牧師の言葉に盲従するクリスチャンを生み出しているということだろう。

そしてまた、「聖書信仰」に立つ人々が特有に持つカルト化への傾向も吟味しなければならない。端的に言えば、聖書の言葉に従順する姿勢を植え付ければ、その聖書の言葉を表層的・恣意的に用いることによって信徒を無批判に従わせることができるということだ。私たちは、いわゆるカルト化した教会を批判するだけで終わってはいけない。聖書を霊感された神の言葉として信じつつ、なおかつ客観的・本質的に物事を見る目を養わなければならないと思うのだ。

余談:水戸黄門の印籠にそれだけ力があるんだったら早く出せよ、越後屋が町娘をいじめてるじゃねえか、と思ってしまうが、早く出したら番組は15分で終わってしまい、ドラマも何もなくなってしまう。水戸光圀も、権威を振り回す野暮なじじいになる。伝家の宝刀は最後の最後まで取っておく、腫れ物には潰す時期がある、とも言える。

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